精こめる喜びを知ることも結構である。しかし一応しかるべき豪華な食卓を人生当然の喜びと考え、趣味を満足させたり、仕事のあとで遊んだり、好みの着物をきるぐらいのことは理窟ぬきに人間あたり前の生活であり、せめてそれぐらいの生活の楽しさは万人の物としなければならない、と考えるような大らかさも、素直さも、日本庶民の生活史には殆ど見ることが不可能だ。いつもアキラメが先に立ち、欲することも正しいことだということが庶民生活に素直にとり入れられたことがないのである。
 その不自然さはパチンコの日本征服というような狂躁にみちた狂い咲きとなって現れたり、坊主でもないくせに出家遁世の志となって現れたり、突如としてサビや幽玄からフランケンシュタインの心境へ移行するというような、日本庶民の生活信条は尤もらしくもあるし不可解でもあるし、通算して諸事難解をきわめるのである。
 たッた一ツだけハッキリしていることは、なんべん同じ目に合っても性コリもないということだ。
 焼けない都市が焼跡のバラック都市よりも汚くて貧しそうで暗いというのも悲痛きわまる話であるが、焼跡のバラック都市の方だッて、今のところ古い物よりも若干マシ
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