ろうと、進歩党だろうと、そんな区別は問題ではない。いやしくも庶民の代表たる政治家たるものが、庶民生活のこの暗さや貧しさに打たれないのがフシギではありませんか。祖国の力が尽きはてるほどの大戦争に敗北し、生活の地盤の大半が烏有に帰し、その荒涼たる焼野原へ不足だらけの資材をかき集めて建てたバラック都市ですら、焼け残った都市よりも立派なのだ。
 焼け残った都市が焼け跡のバラック都市を指して、この戦争の惨禍を見よ、戦争の悲しさを見よと言えないことは奇怪千万ではないか。そう云えたのは焼跡が暗黒マーケット時代の三四年間だけのことだ。たった五年目、六年目で、もうそれが云えない。今では焼け残った都市の方が逆に汚く貧しげで、戦争前の庶民生活が豊かで平和でたのしかったことを実質的に語っているような誇りやかな遺物は殆どない。きわめて一部の社寺や大邸宅が華やかな過去を語っているが、それは大多数の庶民生活にはカカワリのないものだ。秋田県の山村で、車窓から見た小学校の建物などは、爆撃直後の半壊の小学校よりも甚しく、正視に堪えないものがあった。窓のガラスもなく、片手で押しても忽ちつぶれそうな破れ放題のアバラヤ学校であ
前へ 次へ
全40ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング