が前後にしか採光でぎないが、タクアン石をのッけた屋根のゆるやかな新農家は、屋根裏部屋も前後左右から採光できる。おまけにこの屋根の先端を前後左右ともに長くのばして、二階の左右の窓は屋根が軒の作用をして風雨をしのぎ、前後の窓の外側には屋根から塀のような板ばりを垂らして風雨をしのぐ仕掛けになっている。この板ばりは敷居によって左右に開閉できるから、晴天の日はこの塀の戸を左右にあけて、二階に光を採り入れることができる。ガラス戸や雨戸がないころ、障子だけしかなかったころの産物であろう。ガラス戸や雨戸が自由にとりつけられる今日でも旧態依然というのは智恵のない感じがするが、これを工夫した当時としては相当の工夫であったに相違なく、ともかく一ツの建築文化を感じさせるし、総体に建物も大きく、延坪から言えば新潟あたりの小作農家の十倍以上はタップリあろうというものである。なお、屋根に多くのタクアンの重石のようなものをのせるのは、クギを用いないためであり、つまりクギによる雨モリを防ぐための当時の新工夫であったらしい。恐らく白川郷的な農村建築が先に在って、その屋根をゆるやかに改めることによって屋根裏の採光を工夫し、
前へ 次へ
全40ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング