た、昔ながらの都市を見る方が、日本の庶民生活の貧しさ悲しさに目をうたれるのである。まして雪国ともなれば、風土的にどうにもならない貧しさ悲しさが一そう甚しく目をうつものだ。秋田市は徳川三百年一貫して佐竹氏の城下であるが、領主がいかに善政をしいたところで風土的にどうすることもできない貧しさ悲しさは街々の古い姿にハッキリ現れている。
 雪国の小作農家の住宅はひどいものだ。特に小作の多かった新潟県がひどい。東海道、山陽道等の一般農家建築とは、比すべくもない。その小さいことも論外だが、屋根にはタクアン石のようなものを並べ、壁は荒壁のままである。これ式の農家は秋田県にも少くないが、二階に張りだし窓のような独特のフクラミをもった藁屋根の中農家が目立つので、新潟県の農村ほど寒々した感じがない。
 屋根に石をのッけた農家は、飛騨の農家がそうである。ところが、飛騨の農家は概してそう小さくはないし、独特の様式があって、その様式に多少の文化、工夫とかユトリとかを感じさせる。飛騨の農家は屋根の傾斜が甚しく緩やかである。これは大家族主義で有名な白川郷の農家の屋根が急傾斜なのとアベコベで、白川郷の屋根だと屋根裏部屋
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