斜の限度が、どこにあるのか? フルサトの裏町に似た秋田の裏町をぶらつきながら、チョコンと傾いて並んでいる家々の傾斜の限度がひどく気にかかりましたよ。そして傾いた屋根の下に、長い一冬の雪の下に、アキラメと楽天との区別のつかないアイノコが人々の心にしみつき、育って行くのである。
秋田の街は戦災をうけていない。恐らく終戦後三年か四年の後ならば、私の受ける感じはちがったものであったと思う。今日ではすでに東京の主要な場所はバラックながらも再建されて焼跡の汚さは見受けることができないし、大阪も、その他の多くの戦災都市も、私の見て歩いた限りでは八分通り再建作業が出来ている。
焼跡の再建都市はバラックではないにしても、乏しい資材で間に合せたバラックまがいの街なのである。それですらも焼けない都市よりは見た目に明るく美しい。整然としてもいる。
美しい港町と云われる長崎すらも――この港町は原爆で屋根やガラスに被害をうけたが、焼けることなく昔日の姿にかえっているのだが、むかし居留地だった洋館地帯をのぞけば、むしろ戦災をうけないための汚らしさの方が、今日に至っては目立つのである。小京都とよばれるヒダの高山
前へ
次へ
全40ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング