と、私は大いに悲観的に考えこまざるを得なかった。おまけに車内の人たちは傍若無人である。すでに寝ている私を叩き起して、自分の椅子の位置をかえる。彼ら四人は椅子を向い合せにして語らっていたので、自分の椅子を平行に直してねむるために、寝ている他人を叩き起す必要があったのである。
「これも日本犬に似ているなア……」
 と、私はまた、ふさぎこんでしまった。寝ついたトタンに起されて、私は一晩ねむることができなかった。したがって、翌朝秋田市についたときには、完全にノビていた。
 私の生れた新潟市と秋田市はよく似ている。まったく同じものは裏町である。裏町の中流の庶民住宅である。みんな横に傾いたり、家全体がひんまがっているのである。雪国の悲しい特色の一ツであるが、家の造りがいかにも薄く軽く安ッぽいのは、中位の堅牢さよりもこの方が雪に抵抗し易いせいもあるかも知れない。そして人間がまッすぐに立つのに苦労しそうな傾いた家々に人々は平気で住んでいるし、雪につぶされたという話もきいたことがない。しかしほッたらかしておけば、いつかは倒れるだろうし、いつかは修繕したり、たゝきこわして造り代えたりするのであろう。この傾
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