き地を探しての移動が迅速のせいかも知れん。彼らはたしかに甚だ活動的な人種で、馬と弓矢に長じており、この二ツと斧が主要な生活必需品であったらしいし、すでに建築の心得もあった。ヒダのタクミと云う通りさ。
もっとも、逃亡したヒダのタクミ(奈良や京都の建築に徴用された奴隷だ)の捜査と逮捕を命じている千百年ほど昔の官符の一ツに「ヒダの人間は言葉も容貌も他国に異るから名を変えてもすぐ分る」と但し書がついてる。これがどうも分らぬけれども、タクミの系譜は日本の支配者たりしヒダ人とは別なんですかね。とても拙者の手には負えません。
しかしヒダ特有らしい顔、ヒダのタクミの顔は今も多少残っています。どんな顔かというと、仁王様や赤鬼青鬼や、女の顔の場合だとナラのミヤコの古い仏像がそうだ。自分たちの顔が仁王や仏像の原形なのさ。仁王様がスゲ笠なんかかぶって歩いているのに何人も会ったよ。二ツの目の上やホッペタにゴツゴツとコブのある顔だ。女の場合にもそうでもあるが、脂肪によってコブとコブの谷間が平らになると、まんまるい仏像の顔になる。今でもヒダの名もない寺の名もない仏像に、勿論その存在は誰にも知られていませんから国
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