クナは敵軍来るときいて、ミノのブギ郡の下保へ出陣したとあるが、そしてその辺がたしかに両面神の最も主要な戦場を暗示しているのは事実であるが、ケサ山千光寺の所在地をヒダの丹生川《ニウガワ》村|下保《シモホ》という。彼が傷いて敗退したミノの地名をかりたのかも知れない。
 しかし、この山奥へ追いつめられてホラアナで死んだミコは、この山奥で王様たるべき人ではなかったようだ。それは書紀の壬申の乱の戦場をシサイによむと、その戦場は大和ではなくヒダでなければならぬ筈だが、ヤマトだのナラの山ができて、それを兵隊たちが「古京」とよんでいるのだ。その古京は恐らく近江に対する古京ではなくて、ヤマト、アスカに対する古京であり、そしてヒダの地に古京があるユエンは、ヒダの王様がここのミヤコを去ってヤマトやアスカで新しい都をひらいていたせいだろう。
 その一族と天武帝の一族が赤の他人か血族であるか。どうも血族的ですね。そしてまつろわぬスサブル神(赤の他人)を平定した前世代はヒダの地へ天ツ船でのりこんだんだろう。それもそう遠い過去ではなかったようだな。しかし、その船つきの地点に古墳が一ツもないそうだが――それは彼らの良
前へ 次へ
全58ページ中54ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング