黒くなる、夜も目が見えてくる、その他の何にでもきく。まさに老を養う水の精とはこれだ。このフシギを目のあたり見てはジッとしてはおられん。よって養老と年号を変え、罪人の罪を許す」
大そう変ったミコトノリを発して年号を変えて、大赦を行いました。「俗に云う孝子と養老の滝が酒になったという話はツクリゴトで、これが養老改元の発令された真相なのであります。
信濃と美濃へ遷都だとか行幸という目的は、実はその温泉が目当てのようだ。
ここに思いだされるのは、日本武尊が伊吹山で気を失って死にかけたとき、清水をのんだら、いったん目がさめたという。それでサメ井の美泉とか称されて天下に名高い美泉伝説がある。
大友皇子の運命は日本武尊の悲劇によく似ている。どちらも天皇に殺されてるし、殺された場所が伊吹山を中にはさんで東と西、ミノと近江に分れているだけだ。おまけに日本武尊の死体は白鳥となってなくなり、大友皇子は首を敵に持って行かれてしまう。
さて、ここで壬申の乱、天武天皇と大友皇子の戦争のところの文章を見ていただきたいのです。天武天皇は美濃に陣をかまえて近江へ攻めこみますが、この文章の順だと、近江に近い方か
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