ら、不破、野上、ワサミの順に陣をかまえた筈でなければならないが、ワサミに大軍がおってこれを握ってる高市皇子は近江の方へは全然動いた記事がありません。のみならず、近江方の羽田公矢国という大将が帰投すると、これを味方の大将に任命して、越《コシ》へ攻め入らせています。近江に敵がいるのに越を攻めるとはワケが分りません。
 まア、そのへんはどうでもいいのですが、伊勢、伊賀、尾張、美濃などの大軍がうごき、近江の方も九州や東国へ援軍を送るように使者をだしている。それによると、東の方は天武の領分で、西の方の諸国は近江方の領分のように思われますが、大友皇子の命で筑紫へ援軍をもとめにゆく使者がアズミ連《ムラジ》です。
 一番変テコなのは、すぐお隣の国で、そしてどちらの陣にとっても一番ちかいお隣りのヒダに、どちらも援軍をもとめない。それどころか、信濃という言葉はでてきても、ヒダという言葉は完全に一度もでてきません。これはどういうわけでしょうか。
 すでに申上げたように、両面神話はたいがい一応アベコベにひッくり返してあるものだ。壬申の乱では伊吹山を中心に敵味方が西と東になってるが、筑紫へ行く使者が明かに信濃の
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