たん古事記をつくり、しかる後に更に書紀のヘンサンを命じたのは、国史の偽装が細部にわたるまでツジツマよく施されておらぬウラミがあって不満があってのことに相違ない。しかし女帝は天智の娘でもあるから、身内同志のケンカで、特に父側を悪しざまに作るわけにもゆかなかったであろうから、この偽装は微妙を極めていると思われる。
結局、天武と大友皇子の悲劇は、両面神話の主人公の悲劇と相似たものに作られた。その原形がどちらか、あるいはどちらも真実相似たものであったか、それをツマビラカにはなし得ないけれども、多くの両面神話が相レンラクして暗示するものには、天武大友の悲劇をホーフツせしめるものが含まれておるし、天智大友天武の関係からは両面神話の主人公の悲劇的な運命の最も大きくて本質的なものをホーフツせしめてもいるのである。
これはむろん微妙な考慮が施されてのことであったに相違ない。いったん即位した兄の子を殺して自分が天皇となった。自分の妻は先帝の娘で、殺した太子の姉でもある。
神話や上代天皇史の多くが父子兄弟相争う悲劇であり、その原因としてはどの子供に皇位を与えるか、また、自分の弟にか、実子にか、またそこ
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