自分が即位した。
 この天武は古事記や書紀のヘンサンを命じた女帝の父たる人である。だから、官撰の国史というものは当然、天智の死とその子たる大友皇子殺害事件が偽装すべき重大な秘密の一ツであったことは申すまでもないし、そのゴマカシが官撰国史の主要な任務でもあったろう。だから官撰国史の天智、大友皇子の話は決してそのままに信用はできない。
 ところが、なんとなく大友皇子的運命らしいものが、両面伝説の立役者の一ツの運命として悲劇性の一ツとしてダブッており、これまた各時代の各人物に分散せしめられたオモムキが見られるのである。
 天武天皇は大友皇子を殺す前に、自分の方が兄の疑いや憎しみをうけて、いったん殺されそうになっている。結局、自分の方がやらないと、自分がやられそうな場合でもあって、やむを得ず大友皇子を殺して、皇位につくというのが国史の語る筋である。
 これが本当の話であるか、偽装がほどこされているか、それを正確に知る手段はもとよりないけれども、天武天皇の皇后たりし女帝(と云っても持統帝ではなくその妹帝である)のヘンサンを命じた史書だから、万事話が天武側に有利につくられてるのは自然であろう。いっ
前へ 次へ
全58ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング