スクナの両面の片面はヒダ側の伝説となって伝われるのみで、ヒダの国史にはスクナの反対の分身、ありがたい方の分身の分配が全然ないし、他のありがたそうな神様も全然分配されておりません。古代史に於ては珍しい例で、全然というのは面白い。
つまり、分配されない理由があって、それをヒダ側の伝説が補足説明していると見ることができますまいか。よその国にはタカマガ原だの、天の岩戸だのと、方々に見られますが、ヒダには国史にツジツマを合せようとしたような跡はミジンもありません。よその国は国史の指示によって、また人たる者の自然の気風によって、国史にツジツマを合せた。しかしヒダの国はツジツマを合せる必要はない。ヒダにツジツマを合せたのが国史の方なのだ。ヒダの方からツジツマを合せる理由はない。だから全然ツジツマは合わないけれども、国史がツジツマを合せた原形たるものは何の手入れも施されず、したがって雑然としながらもなにがなし厳たる貫禄をもって、みんなヒダに実在しているようです。古代の国史の地名の原形らしいものは殆ど全部この地で見ることができます。
天孫降臨の段に、天稚彦《アメノワカヒコ》を葦原の中ツ国につかわした
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