は悲惨です。熊襲《くまそ》征伐の時も天皇が自分を殺すために旅にだすのだと嘆き、東征の時にもいよいよ自分は生きて帰れぬ、天皇は自分を殺すツモリだと嘆いています。そのときミコトに刀を与えたりして励ましているのは、伊勢と熱田の斎宮の皇女ですが、さて双生児の一方はというと、書紀の伝えでは天皇が兄をよんで、熊襲は弟の日本武尊が平げたから東のエミシはお前がうてと命ぜられたが弱虫の兄は顔色を失ってしまったから、そんな弱虫は勘当だとヒダへ流されたという。そしてこの皇子は守君とムケツ君の祖だと云うてますが、ヒダへ流されてからのことは何も伝わっていません。古事記によると、ミノの神大根王《カミオオネミコ》の娘に兄ヒメ弟ヒメという姉妹の美人があるときいて天皇が二人の美女を連れてくるようにと大碓命をつかわした。ミコトは二美人と仲よくなったあげくニセモノを天皇にさしあげて自分は二美人とたわむれて朝礼も怠ったから、日本武尊に命じて兄に朝礼するよう忠告せよとつかわされた。日本武尊はその兄をつかみ殺しひきさいて棄ててしまったから、天皇はその蛮勇を怖れ、諸国の悪者退治にだして殺そうとされるに至ったというのである。ミノは当
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