が一切ないから、服は泥だらけ。それまでの調査のメモをコクメイにつけておいたノートを四ン這いの悪戦苦闘中にポケットから落して紛失しました。しかしイノチを落さないのが拾い物さ。こッちは商売だから我慢もできるが、同行の大人物には気の毒千万で、彼は翌朝の目覚めに寝床から這い起ることができないのです。必死に手足に力をこめても、二三分間は一センチも上躰が持ちあがらないのですよ。私のことは言わぬことにしましょう。この記述の方法を日本古代史の要領と云うのです。
この難路をどうして予知しなかったかというと、里の人はスクナ様のタタリを怖れて登らぬし、里人への遠慮かそれはヒダの全部の人々にもほぼ共通して、相当の土地の物知りも登っておらず、昔の記録に日面《ヒオモ》の出羽ノ平のホラアナとあるから、谷川をさかのぼると出羽ノ平という平地があってホラアナがあるのだろうと考えている。
これが大マチガイで、谷川を一足はいってからは平地が全くなく、鍾乳洞まで登りつめても全然平地はありません。しかし、この山頂の尾根づたいの山上に平地があるらしい。正しい地図を見ると、そうらしいのです。その山上の平地が出羽ノ平かも知れません
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