うようにくり返しています。表面が砂のような富士山だから火口壁も再々くずれ火の玉と黒煙の噴火が入りまじって起ったものらしい。今回の三原山のもそうらしいが、富士山の記録にくらべると黒煙におおわれるよりも、火の玉だけ打ちあげるバクハツの方が多いようですね。主として直径一寸ぐらい、時に直径一尺位の火山弾もうちあげているそうですが、打ち上げる高さはせいぜい二三百米にすぎず、内輪山の火口壁周辺にころがり落ちる程度で、沙漠の外側の外輪山で見物している我々には全然危険がないそうだ。黒煙をふきだす時でも、煙の高さは五百米位にすぎないそうで、浅間山のように天高く、また遠く山麓に向って広範囲に火山弾や火山灰を噴き散らすことはないらしい。
三原山は多量の煙をださない代りに多量の熔岩をだす。昔人々がとびこんで自殺した火口は去年以来のバクハツごとに熔岩でふくれあがり、今では昔の火口が熔岩でいっぱいになって熔岩の湖となり、その湖上にさらに熔岩がもりあがって山をきずいたのが新火口である。三原山の最高所は波浮よりの外輪山の剣ガ峯という七五五米のところだが、新火口は現在に於てそれとほぼ同じ高さの山(コニーデというそうだ)をなしているそうだ。
その新火口のテッペンから、バクハツにつれて熔岩がモロモロわきだすのだろうと思うと、さにあらずだそうだね。もっと下の横ッチョに、山の腹をやぶって熔岩をふきだす孔があるのだそうだ。今は二ツある。先日までは三ツ現れた時もあるそうだ。その白い閃光を放つ口から音もなく熔岩がでるのだそうだね。薄気味わるい話さ。なんしろ地底から火の玉を噴いたり、火の川がモロモロと音もなく流れでてくる騒ぎであるから、天地と共に変りあることなし、などゝ子孫に訓辞をたれていられない。測候所の技術者が山へ観測にでかけて、新火山を写真に撮してきた。現像してみると新火山の横ッチョに(まア山のノドクビ、あるいはハナや口ぐらいの高さのところ)孔ができてるのですよ。相当大きな凹みで、火山のヘソのような妙にハッキリしたものだが、撮影した人は肉眼の観測ではそれに気付いていなかったそうだね。
「フィルムのシミかも知れませんね」
測候所の方々は私たちにその写真を示して、こう控えめに仰有《おっしゃ》った。次回の観測の時にはもうそのヘソはなかったし、その後再び現れないから、学者は素性のハッキリしない現象を一応オミット
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