水を売りつけてボッたんだね。貴重な水だから、濁っていても光りかがやくさ。
吉水院の前には珍しく清水があったし、名も吉水だから、吉野をひらいた役の行者がこゝに庵室を造ったというのも、こゝが水にめぐまれていたせいかも知れない。その庵室が後年の吉水院、今の吉水神社、後ダイゴ天皇の仮の宿舎です。この庵室は鎌倉時代の建築で、後ダイゴ帝の泊った時のままのものだ。後ダイゴ帝の遺品には楽器が多いや。御岳丸笙、国軸丸笙という笙があったし、七文字笛、高麗笛という笛の精が中に住みついているようなのもあったね。楽記という書物もあった。続拾遺和歌集があった。風流でいらせられる。詩歌管絃に身をかためて京都を脱出あそばしたね。字も名筆だ。この帝、感情豊富ナリ。しかし、水の乏しい吉野で、枕の下に水をくぐらせてしまったのは、誰しも傷心やみがたければ、そうもなろうというものだろう。だいたい人の判断が視覚に幻惑される例は多いね。この山この谷の姿を見ればトウトウと谷の流れや至るところに清水の流れを思うのは自然なのさ。この山に水がないときいた方がビックリするよ。全山冷めたく清らかな清水にあふれているように思われますね。桜ノ花
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