るのだが、仙人は空をとんでとぶとりの飛鳥の里の久米川上空にいたり、センタクしている女の子のフクラハギを見て墜落したね。よってそれより人間に戻ってその女の子と結婚し、仲よく暮したそうだ。イニシエもイマも目にしむフクラハギ吉野はカナシ花ミエズ。久米の人マロかね。
 先月、仙台の旅行から戻ってきてから肺炎をやった。旅行の疲れのせいではなくて、伊東の町に火事があって猛スピードで見物に行って水を浴びたせいであった。コレヲ歓楽の果トイウカ、ペニシリンには感激しました。たッた一晩で熱が落ちた。ドクター曰く、ペニシリンに狎《な》れるナカレ。肺炎ハ肺炎デアル。二週間ハ注意シタマエ。しかし締切が待っているから仕方がない。翌日から仕事にかかり、競輪にも出かけましたね。再びどッと床につき、今度はいつまでも微熱が去らない。吉野旅行が延び延びとなり、ついに意を決しペニシリンと注射器一式にダイヤジンをぶらさげて吉野へついたら、花の散ったあとであった。しかし、どうせ花を見ない私である。久米ノ仙人の末流さ。
 神武天皇が熊野から八咫《やた》の烏の先導で吉野にかかったとき、尾のある人間が井戸の中から出てきて、その井戸が光
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