北上し、右手山際に、景行、崇神両帝の陵をすぎ、石上神宮があって、やがて現代教祖のお筆先賑う丹波市となるのである。
 いわば吉野も、この古の道の支線の一ツだ。伝に曰く、役《えん》の行者がひらいた道さ。そして今も年々歳々山伏の通る道である。この地帯は山伏の聖地である。吉野には蔵王堂があって、この聖地の本堂だ。そして金峰山のテッペンから大台ヶ原全体にかけて、すなわち山伏の根本道場だね。蔵王堂は木造建築としては東大寺の次ぐらいに大きいのだそうだが、実にヌッと突ッ立ってる様が山伏的にブザマで、美的じゃないね。この本堂の前に人だかりがあって、本堂のキザハシの上で洋装の女の子が炭坑節を唄っていたよ。桜まつりと、いうんだそうだ。私の行った日は、桜まつり歌謡曲の日。その翌日は、ストリップ桜ショウの日、と宣伝ビラにあったね。山伏の根本道場のキザハシでストリップをやるのさ。役の行者以来、法術によって何でも祈りだすのが山伏というものさ。
 吉野山に立って北方を見ると、天は山々の壁によってさえぎられ、一きわ高いのを龍門岳というね。ここに昔、久米の仙人が住んでいたのだ。その山々の向うに飛鳥の地があって大和盆地があ
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