あり、歴史というものは、たとえ素人のタンテイ眼を用いてでも、その正しい史実をもとめるべく努力することが理にかなっているということを明にしたかったからであります。学問は真理をもとめて真理を語るものであるが、つとめて真理をごまかそうと努力している学問は日本歴史あるのみ。日本の史家が真理をもとめようとしないから、素人タンテイが柄にもなく言わざるを得ないのです。素人タンテイのナマクラ手口に対する諸先生のお叱りは覚悟の上であります。
 さて、かりに私のタンテイの結果を認めることにすると、書紀に於いて蘇我氏が素性のない成り上り者ではなくて、建内|宿禰《すくね》という怪人物の子孫に表現されているということには、いろいろと意味がありそうだね。しかし建内スクネとは何者ぞや。これはどうにも分りッこないね。まったく神話という太古の湖の底の存在だもの。湖面にはなんの手がかりがあるものですか。
 だが、記紀から判断すると神功皇后は神がかりして予言などを行うミコや教祖の実力を具えていたようだ。すると建内スクネは教祖の参謀長、否、総理大臣かね。それにしては、その後のスクネが妙に忠実な番頭で、現代に於ける教祖の総理大
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