篇の中で、ただ一ツ調子が妖しく乱れて、テンカン的にざわめき立っているのがこの一ヶ所であるのを知れば、書紀成立の重大な理由の一ツが天孫たる天皇家の日本の首長たる神慮や定めを創作するにあったというその最も生々しい原因が蘇我天皇の否定、蘇我天皇よりも現天皇の優位を系譜的に創作する必要に発していたと見てよかろう。蘇我天皇の否定、現天皇の優位を理窟づけることは、さしせまった大問題であったのだ。ことその条に至るや妖しくも調子が乱れてざわめき立たざるを得なかったほどの大問題であったのさ。蘇我氏とともに蘇我氏の国記を亡して、自分の国記を創る必要があったのだろうね。
 歴史家でも学者でもない私は、文章の調子から歴史をタンテイするという妖しい手口を用いたのですが、しかしタンテイするためにムリにその手口を発明したわけではないのです。たまたま書紀にそういう文章があって、同時に上宮聖徳法王帝説という妙に冷静な欠字をもった書物があったということが、おのずからムラムラと私にタンテイの意慾を起させただけのことです。しかし、こういうことを発《あば》くことが現天皇家に何の影響もありうべからざることは前章でルル述べた如くで
前へ 次へ
全34ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング