独をもとめるに限る。そして坊主になるがよい。出家遁世といふ奴は平安への唯一の道だ。
 だいたい恋愛などゝいふものは、偶然なもので、たまたま知り合つたがために恋し合ふにすぎず、知らなければそれまで、又、あらゆる人間を知つての上での選択ではなく、少数の周囲の人からの選択であるから、絶対などといふものとは違ふ。その心情の基盤はきはめて薄弱なものだ。年月がすぎれば退屈もするし、欠点が分れば、いやにもなり、外に心を惹かれる人があれば、顔を見るのもイヤになる。それを押しての夫妻であり、矛盾をはらんでの人間関係であるから、平安よりも、苦痛が多く、愛情よりも憎しみや呪ひが多くなり、関係の深かまるにつれて、むしろ、対立がはげしくなり、ぬきさしならぬものとなるのが当然なのである。
 夫婦は苦しめ合ひ、苦しみ合ふのが当然だ。慰め、いたはるよりも、むしろ苦しめ合ふのがよい。私はさう思ふ。人間関係は苦痛をもたらす方が当然なのだから。
 ゼスス様は姦淫するなかれと仰有るけれども、それは無理ですよ。神様。人の心は姦淫を犯すのが自然で、人の心が思ひあたはぬ何物もない。人の心には翼があるのだ。けれども、からだには翼がな
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