間性への省察であるが、かゝる省察のあるところ、思ひやり、いたはりも大きく又深くなるかも知れぬが、同時に衝突の深度が人間性の底に於て行はれ、ぬきさしならぬものとなる。
人間性の省察は、夫婦の関係に於ては、いはゞ鬼の目の如きもので、夫婦はいはゞ、弱点、欠点を知りあひ、むしろ欠点に於て関係や対立を深めるやうなものでもある。その対立はぬきさしならぬものとなり、憎しみは深かまり、安き心もない。知性あるところ、夫婦のつながりは、むしろ苦痛が多く、平和は少いものである。然し、かゝる苦痛こそ、まことの人生なのである。苦痛をさけるべきではなく、むしろ、苦痛のより大いなる、より鋭くより深いものを求める方が正しい。夫婦は愛し合ふと共に憎み合ふのが当然であり、かゝる憎しみを怖れてはならぬ。正しく憎み合ふがよく、鋭く対立するがよい。
いはゆる良妻の如く、知性なく、眠れる魂の、良犬の如くに訓練されたドレイのやうな従順な女が、真実の意味に於て良妻である筈はない。そしてかゝる良妻の附属品たる平和な家庭が、尊ばれるべきものでないのは言ふまでもない。男女の関係に平和はない。人間関係には平和は少い。平和をもとめるなら孤
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