警報がなるさきに、私はもう防空服装に着代えていたけれど、ねていた子供たちを起して、身仕度をつけさせるのに長い時間がかゝったのよ。やかれることを直覚して、あせりすぎていたから身支度ができて、外へでて空を見上げるまもなく、探照燈がクルクルまわって高射砲がなりだして、するともう火の手があがっていたのだわ。ふと気がつくと、探照燈の十字の中の飛行機が、私たちの頭上へまっすぐくるのです。一時に気が違ったように怖くなって、子供を両手にひきずって、防空壕へ逃げこんだのよ。その時は怖さばかりで、何一つ持ちだす慾もなかったわ。息をひそめているうちに、怖いながらも、だんだん慾がでてきたのよ。そのとき秋夫がお母さん手ブラで焼けだされちゃ困るだろうと言ったの。すると和子が、そうよ、きっと乞食になって死んでしまうわ、ねえ、何か持ちだしてよ、と言ったのよ。私たちは壕をでたの。そのときは、もう、四方の空が真ッ赤だったわ。けれどもチラと見たゞけよ。私たちは夢中で駈けたの。あのときは、でも、私の目は、まだ、見えたのよ。空ぜんたい、すん分の隙もなく真赤に燃えていたわ。そうなのよ。ゆれながら、こっちへ流れてくるようにね、ぜん
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