アンゴウ
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)屡々《しばしば》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから横組み]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)キャア/\
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矢島は社用で神田へでるたび、いつもするように、古本屋をのぞいて歩いた。すると、太田亮氏著「日本古代に於ける社会組織の研究」が目についたので、とりあげた。
一度は彼も所蔵したことのある本であるが、出征中戦火でキレイに蔵書を焼き払ってしまった。失われた書物に再会するのはなつかしいから手にとらずにいられなくなるけれども、今さら一冊二冊買い戻してみてもと、買う気持にもならない。そのくせ別れづらくもあり、ほろにがいものだ。
頁をくると、扉に「神尾蔵書」と印がある。見覚えのある印である。戦死した旧友の蔵本に相違ない。彼の留守宅も戦火にやかれ、その未亡人は仙台の実家にもどっている筈であった。
矢島はなつかしさに、その本を買った。社へもどって、ひらいてみると、頁の間から一枚の見覚えのある用箋が現れた。魚紋書館の用箋だ。
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