矢島も神尾も出征まではそこの編輯部につとめていたのだ。紙面には次のように数字だけ記されていた。
[#ここから横組み]
[#ここから2字下げ]
34 14 14
37 1 7
36 4 10
54 11 2
370 1 2
366 2 4
370 1 1
369 3 1
367 9 6
365 10 3
365 10 7
365 11 4
365 10 9
368 6 2
370 10 7
367 6 1
370 4 1
[#ここで字下げ終わり]
[#ここで横組み終わり]
 心覚えに頁を控えたものかと思ったが、同じ数字がそろっているから、そうでもないらしい。まさか暗号ではあるまいが、ヒマな時だから、ふとためす気持になって、三十四頁十四行十四宇目、四字まですゝむと、彼はにわかに緊張した。語をなしているからだ。
「いつもの処にいます七月五日午後三時」
 全部でこういう文句になる。あきらかに暗号だ。
 神尾は達筆な男であったが、この数字はあまり見事な手蹟じゃなく、どうやら女手らしい様子である。然し、この本が疎開に当って他に売られたにしても、魚紋書館の用箋だから、この暗号が神尾に関係していること
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