中通りかゝると、二人の男が屍体七ツつみ重ねて火をつけるところだ。見物してゐるヒマ人もをらず、鼻唄まじりで呑気なもので面倒がつてドッコイショと屍体を投げすてゝ、次の屍体をとりに行きかけて、ヒョッと気がついたのは何かといふと屍体が戦闘帽をかぶつてゐる。これは勿体ないといふので、戦闘帽をぬがせて横ッちよへ投げた。あとで誰にいくらに売つたか知らないが、私は然しチラと横目にこれを見て、別に厭な気はしなかつた。青空の明るい夏であつた。すべては健康であつた。野武士といふものも、こんな風な、健康なものであつたに相違ない。人間の健康さだか、森の狸や狢《むじな》のやうな健康さなのだか知らないが、私は今でも忘れない。ヒョイと帽子をつかみとつて横へ投げすてた。だいたい屍体に対する特殊な感情や態度が微塵もないので、罪悪的な暗さは全くない。開放的で、大らかで、私が健康を感じたのは私が落ちぶれたせゐではないのである。私をとりまく環境が、かういふ風になつてゐた。
近頃では立小便は罰金をとられるけれども、あの当時は、焼け残つた家の便所で尤らしく小便するのが奇怪なほどで、遊びにきた人に、オイ/\、君、外へ行かなくつても
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