家の中に便所があるよ、と言つても、イヤ、面倒だよ、と云つて、わざ/\下駄をはいて外へでゝシャア/\やつてゐる。
だから私が荒川熊蔵になつても、自分では別に落ちぶれたとも思つてゐないので、これを笑ふ俗人どもは馬鹿な奴だ、今に穴ボコの中で石と材木に圧しつぶされて死ぬのも知らないで、などゝ得意になつてゐる。
負けいくさの戦争は全く小気味がいゝほど現実に幻想的だ。工夫に富めるラ・マンチャの紳士ドン・キホーテと云ふけれども、私の方では一向に笑ひ話ではないので、戦争中の私を通観すれば、あんまり工夫に富んではゐなかつたが、然し、ともかく、サンチョ・パンザよりはいくらかましな工夫をめぐらして、それが一向にをかしくもなんともない。一方、頭の上にB29といふ厭にスマートな文明の利器がすい/\空をとんでゐるだけ、セル※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ンテス以上に奇怪な幻想的風景なのだが、それが微塵もフィクションではない、ギリ/\の生活だから笑はせる。
おかげで私は丈夫になつた。筋骨隆々、さうはいかないけれども、何しろ栄養がよろしくないのだから、肉体の重量は一オンスもふへてはをらぬのだが、妖怪的な強
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