であつた。戦争させられるからではなしに、無理強ひに命令されるからだ。私は命令されることが何より嫌ひだ。そして命令されない限り、最も大きな生命の危険に自ら身を横へてみることの好奇心にはひどく魅力を覚えてゐた。私は好奇心でいつぱいだつた。そこで又、私は特殊な訓練を始めなければならなくなつた。言ふまでもなく、これも亦、最大の危険の下で、如何にして、なるべく死なゝいやうにするか、といふことだ。
私は然しさういふことがバカげてゐることを感じてゐた。戦争といふ奴ばかりは偶然だ。どこからそれ玉がとんでくるか、こればかりは仕方がないので、私はともかくドラム缶に差当り必要な食糧と寝具をつめて土の中へ埋めておいて、生き残つたときの役に立てるつもりであつた。そこで私は裏の中学の焼跡で機械体操の練習を始め、脚力と同時に腕の力を強くする練習を始めて、毎日十五貫の大谷石を担いで走る練習を始めたのだが、もう夏になつてゐた、私はパンツ一つの素ッ裸でエイヤッと大谷石に武者ぶりつき荒川熊蔵よろしく抱きあげるのだが、おかげで胸から肩は傷だらけ、腕はミヽズ腫れが入り乱れてのたくり廻つてゐる勇しさで、全くどうも、頭の上にはB
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