い教は邪教の人々によつて禁制せられてゐる。清い正しい奉教人がその清さ正しさのために捕へられて、見よ、あの殉教の丘で何人の人々がその血を流し、又、生きながら焼かれて死んだか。私たちが生きながらへて奉教人の道を失ふまいと思ふなら、私のやうに野に伏し山に寝て人目をくゞるか、さもなければ聖像を足にふみ不信を天主様に詫びながら悔恨の多い一生を辿らなければなるまい。このまゝで良いとお前は思ふか。このやうな汚れた世に、あくせくとお金をもうけ、そのお金で身の小さな安穏をはかり、それを孝養だの慈善だのと呼ぶことが怖しいとは思はぬか。それが天主様のお心にかなうことだとお前は考へてゐるのかね」
「神父さまのお言葉の意味が良く分りませぬ。教へて下さいませ。私はどうすればよろしいのですか。私は間違ひを改めます。天主様のお心にかなひ、神父さまのお心にかなう正しい道があるならば、私は必ずその道を歩きます」
「よし、よし。たゞ、それだけで良いのだ。お前は安心して江戸へ行つてくるが良い。商ひをしてくるがよい。だが、ヒエロニモよ。私の言葉、天主様のお心にかなう正しい道がたゞ一つあるといふことを忘れるな。やがてその道がお前
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