を、そして寝室を、さらに広大にするために働いてゐるのであらう。あのヒエロニモまで。彼はなぜ京や大坂や江戸の町へ異国の小間物を商ひに行くか。次兵衛は唐突な怒りのために狂乱した。
彼は直ちに着物をつけて四郎の部屋をたゝき、彼をよびだして、まだ明けきらぬ丘へ登つた。
「ヒエロニモよ。お前は大坂や京や江戸の町へ、商ひのために首途《かどで》につく。だが、ヒエロニモよ。よく考へてみるがよい。お前はなぜ商ひにでかけるのか。そのわけが分つてゐるかね。お前はお金をもうけるためか。さうして、そのお金で何をするつもりだらうか。さア、わたしに考へを語つてきかせてごらん」
「お父さんやお母さんを安楽にさせてあげるためです」
「そのお金でか!」
「いゝえ、神父《パードレ》さま、私はお金のことばかり考へてゐるわけではありません。霊《アニマ》のたすかりのことを第一に忘れてはをりませぬ。また、慈善の心も忘れてはをりませぬ。幸ひ多少の富ができたなら、父母と同じやうに、他の人々をも幸せにすることが出来るでせう」
「その考へは誰でも、当然さうでなければならないことだ。ヒエロニモよ。お前はこの世をどう考へてゐるか。切支丹の尊
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