わが血を追ふ人々
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)松明《たいまつ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)竹中|采女《うねめ》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)足がふらのそ/\
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その一
渡辺小左衛門は鳥銃をぶらさげて冬山をのそ/\とぶらついてゐる男のことを考へると、ちようど蛇の嫌ひな者が蛇を見たときと同じ嫌悪を感じた。この男が鳥銃をぶらさげて歩くには理由があるので、人に怪しまれず毎日野山を歩き廻るには猟人の風をするに限る。この男は最近この村へ越してきて、それも渡辺小左衛門を頼つて、彼の地所を借りうけた。名目は小左衛門の小作であるが、畑などは耕さぬ。毎日鳥銃をぶらさげて諸々方々、天草一円から長崎島原にわたつて歩き廻り、どこに寝てゐるのやら、小屋はあるが、自分の小屋に眠ることなどはめつたにない。ところが一度、小左衛門はこの男の眠るところを見たのである。彼の嫌悪が決定的になつたのは、その時からのことであつた。
この男が水練が達者なぐらゐは驚くに当らぬが、この男は真冬の
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