ないこと夥しく、つまり私は祖国と共にアッサリと亡びることを覚悟したが、死ぬまでは酒でも飲んで碁を打つてゐる考へなので、祖国の急に馳せつけるなどゝいふ心掛けは全くなかつた。その代り、共に亡びることも憎んでをらず、第一、てんで戦争を呪つてゐなかつた。呪ふどころか、生れて以来始めての壮大な見世物のつもりで、まつたく見とれて、面白がつてゐたのであつた。私が最も怖れてゐたのは兵隊にとられることであつたが、それは戦場へでるとか死ぬといふことではなくて、物の道理を知らない小僧みたいな将校に命令されたり、ブン殴られるといふことだけを大いに呪つてゐたのである。点呼令状といふものがとゞいた日の夜、私の住む地区は焼け野原になつた。天帝のあはれみ給ふところと喜んでごまかして、有耶無耶《うやむや》のうちに戦争が終つて、私は幸ひブン殴られずに済んだのである。私はブン殴られたら刺し違へて死ぬことなどを空想して、戦争中、こればかりは何とも憂鬱で仕方がなかつた。私は規則には服し得ない人間で、そのために、子供の時から学校が嫌ひで、幼稚園の時からサボッて、道に迷つて大騒ぎをやらかしたりして、中学校まで全通学時間の約半分はひ
前へ 次へ
全26ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング