ぐうたら戦記
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)取手《とりで》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)百|米《メートル》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ハラ/\
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支那事変の起つたとき、私は京都にゐた。翌年の初夏に東京へ戻つてきて、つづいて茨城県利根川べりの取手《とりで》といふ町に住み、寒気に悲鳴をあげて小田原へ移り、留守中に家が洪水に流されて、再び東京へ住むやうになり、冬がきて、泥水にぬれたドテラを小田原のガランドウといふ友人のもとに残してきたのを取りに行つた。翌朝小田原で目をさましたら太平洋戦争が始つてゐたので、田舎の町では昼は電気のこない家が多いのでラヂオもきこえず、なんだか戦争が始まつたやうだよ、などとガランドウのオカミサンが言ふのを、仏印と泰《タイ》国の国境あたりの小競合《こぜりあい》だらうぐらゐにきゝ流してゐた。正午ちかく床屋へ行かうと思つて外へでて、大戦争が始まつてゐるのに茫然としたのであつた。
国の運命は仕方がない。理窟はいらない時がある。それはある種の愛情の問題
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