をにらんでヒックリかへつてひねもす眠り、怠け者になつてしまふだけだ。利根川べりのこの町はまつたく寒い町だつた。すると私の悲鳴がきこえたのか、三好達治から小田原へ住まないか、家があるといふハガキがきたから、さつそく小田原へ飛んで行つた。小田原は知らない町ではない。牧野信一が死んだ町であり、彼が生きてゐた頃女に惚れて家をとびだし行き場に窮して居候をしてゐたこともある町で、昆虫採集の大好きな牧野信一とミカン畑の山々を歩き廻つたこともあつた。よく/\居候に縁のある町で、今度は三好達治の居候であつた。もつとも別な家に住み、食事の時だけ三好の家へでかけて行く。
戦争のために物の欠乏が現れはじめ、それが私にも気付いたのは取手の町にゐる時であつた。木綿類がなくなつた、東京になくなつたといつて、若園清太郎が買ひにきた。私のところへ世帯じみた話をもたらすのは常にこの男だけで、女房をつれ、子供をつれ、子供のオシメを持つて遊びにきて世帯の風を残して行くので、私が小田原へ越して後も、私のところに鍋も釜も茶碗も箸もないといふので食事道具一式ぶらさげ、女房も子供もオシメもつれてやつて来て、変てこな料理をこしらへて
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