説は完成する。金を送れ。それは大嘘であつた。マッカな嘘である。けれども本当なのだ。私は一年間一字も書いてをらず、今もなほ一字も書きだす力はなかつた。私は然し本屋をだますためではなしに、私自身をだますため、私自身に嘘ッパチの贋物の決意をつくらせるために、余儀ない命令を下すために、うそッパチな手紙を書かずにゐられないのだ。私は私自身を決死隊のあの無理強ひの贋物の決意のなかに突きださなければ仕方のない気持になつてゐたゞけだつた。
 本屋から金が来た。私はそれを握つて酒を飲みに行つた。私は気がつかなかつたが、着物をあべこべに着てゐたのである。私は人にジロ/\見られたことも意識してゐなかつた。酒をのむ家へ行き、そこの女中に注意されて、私はマッカになつた。その気持は京都を去る最後の日まで、否、今も尚、私の記憶から、消すことができない。私はその翌日から無理強ひに仕事を始めた。それは贋物の仕事であつた。私は着物をあべこべに着てゐた。私の魂が着物をあべこべに。私は――仕事をしながら、あべこべの着物を仕事自体に意識しつゞけてゐたのである。
 私は七百五十枚の小説をかゝへて東京へ戻つてきた。昭和十三年の初夏
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