はてさて、こまったことになったわい。オナラというものは万人におかしがられるばかりで人を泣かせるものではないように思っていたが、因果なことになった。しかし娘の身になれば無理もない」
 花子には悲しい思いをさせたくないから、お奈良さまも意を決し、放課の時刻を見はからい、学校の門前で校門を出てくる糸子を呼びとめて対話した。
「このたびは御尊家の葬儀を汚してまことに恐縮の至りでしたが、あれに限って娘には罪がないのでなにとぞ今まで通りつきあってやっていただきたいとお願いにまかりでましたが……」
「そのことはすでに花子さんに説明しておきましたが、申すまでもなく花子さんに罪はありません。しかし人間は一面感情の動物ですから、理論的にはどうあろうとも、感情的に堪えがたいことがあるものです。花子さんを見ただけであなたの不潔さが目にうかんで肌にアワを生じる思いです。絶交はやむをえないと思います」
「どういうことになったら絶交を許していただけるでしょうか」
「あなたが人格品性において僧侶たるにふさわしい高潔なものへの変貌を如実に示して下されば問題は自然に解決します」
「ところが、まことに申しづらいことですが、
前へ 次へ
全22ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング