あの方のことは拙僧の生れながらの持病でしてな。人格品性のいかんにかかわらず、拙僧といたしてはこれをどうするということもできかねる次第で」
「それがあなたの卑劣さです。私たちには礼儀が必要です。自己の悪を抑え慎しむことが原則的に必要なのです。それを為しえない者は野蛮人です。あなたはオナラぐらいという考えかも知れませんが、文化人の考え方はオナラをはずかしいものとしているのです。オナラぐらいという考え方が特に許せないのです。一歩すすめて糞便でしたら、あなたも人前ではなさらないでしょう。あなたのオナラは軽犯罪法の解釈いかんによっては当然処罰さるべきことで、すくなくとも文化人の立場からでは犯罪者たるをまぬかれません。現今のダラクした世相に乗じ、たとえばストリップと同じように法の処罰をまぬかれているにすぎないのです。特に自らオナラサマと称してオナラを売り物にするなぞとは許しがたい低脳、厚顔無恥、ケダモノそのものです。いえ、ケダモノにも劣るものです。なぜならケダモノはオナラをしてもオナラを売り物にはしません。あなたは僧侶という厳粛な職務にありながら、死者や悲歎の遺族の目の前においてオナラを売り物にし
前へ 次へ
全22ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング