お奈良さま
坂口安吾

−−
【テキスト中に現れる記号について】

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)モジャ/\
−−

 お奈良さまと云っても奈良の大仏さまのことではない。奈良という漢字を当てるのがそもそもよろしくないのであるが、こればかりは奈良の字を当てたいという当人の悲願であるから、その悲願まで無視するのは情において忍びがたいのである。
 お奈良さまはさる寺の住職であるが、どういうわけか生れつきオナラが多かった。別に胃腸が人と変っているわけではないらしく到って壮健でまるまるとふとってござるが、生れた時から絶えずオナラをしたそうで、眠っている時でもオナラは眠らない。目をさましている時ほどしょッちゅうというわけではないが、大きなイビキと大きなオナラを同時に発するというのはあまり凡人に見かけられないフルマイだと云われている。彼の言明によると、十分間オナラを沈黙せしめる作業よりも、一分間に一ツずつ一時間オナラを連発せしめる作業の方が楽だということである。
 坊さんは職業としてお経をよむ。ところがこの読経というものは極楽との通話であるから魂が天界を漂う
次へ
全22ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング