もそも彼女には禁酒論や廃妾論などゝ並んで売僧亡国論とか宗教改革論などというものがすでにあったのだから、祖母の葬儀を汚したオナラへの怒りは大きかった。その時までは糸子と花子は親友というほどではないが仲のよい友達であった。葬儀の翌日登校した糸子は同級生の面前で花子へ絶交を云い渡したうえ、
「その父の罪によって子たるあなたへ絶交するのは理に合しないかも知れませんが、この場合、理ではなく、すすんで情をとることにしたのです。祖母の孫たるの情において、あなたの顔を見ることにすらも堪えがたい思いです。肌にアワを生じる思いです」
 なぞと雄弁をふるった。そんなわけで花子は寺へ泣いて帰った。
 お奈良さまもソメ子にトドメをさされて戻ってきたところであった。自分のトドメだけなら円熟した心境でなんとなく処理もできるところであったが、花子の悲哀は思わぬ伏兵であるから気がテンドーした。娘を慰める言葉もなく途方にくれていると、例の物だけはこの際でもむしろ時を得顔に高々と発してくる。四ツ五ツまるまるとした音のよいのがつづけさまに鳴りとどろいたから、花子はワッと泣き叫んで自室へ駈けこみ、よよと泣き伏してしまった。

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