るい。見ると茶の間の一隅に蓄音機があるから、
「これはよい物がありました。ワタクシ蓄音機を膝元へよせまして、これをかけながら読経いたしましょう。ジャズのようなうるさいレコードをかけますれば不調法も隣りまではひびきますまい。お経の声も消されるかも知れませんが、気は心と申しますからホトケは了解して下さると思います」
「隣室では皆さん心静かに茶道を学んでいらッしゃるのですよ。唐紙を距ててジャズをジャンジャン鳴らされてたまるものですか。まア、まア、なんという心ない坊さんでしょうね」
ソメ子は眉をつりあげて怒ってしまった。そのとき幸いにも居合せた唐七が、
「せっかくおいで下さったのだから、それではこうしましょう。奥の私の居間へホトケの位牌や遺骨を運びまして、そこで存分に冥福を祈っていただきましょう。さア、おいで下さい」
お奈良さまを自分の居間へ案内して、遺骨や位牌を運んだ。
「本日はホトケのためのお志、まことにありがたく存じます。ホトケの最後の言葉が、近々あの世へ参りますからお奈良さまにお経もオナラもあげていただきますよ、というのだから、本日はさだめしホトケも喜んでいることでしょう。ここはず
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