の咬傷は治りがおそく、また、かなりの鈍痛をともなうもので、その晩はちょッと発熱して悪夢にいくたびとなくうなされた。
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初七日から四十九日までのオツトメの日には代理の高徳をさしむけてホトケの冥福を祈ってもらったが、ホトケには特別の愛顧をうけ、またはしなくもその臨終に立ち会った因縁もあるしするから、代理まかせにしておくだけでは気持がすまなかった。さりとて人の集る法事の席へはでられないから、平日をえらび、糸子も学校へ行ったあとの午前中を見はからって、読経におもむいた。
「御愛顧の大恩もあり、また浅からぬ因縁もあるホトケの法要にオツトメにも参じませず心苦しくは存じておりましたが、重ねて不調法をはたらいてはと心痛いたしましてな。で、まア、本日はお人払いの上、心おきなく読経させていただきたいと存じまして参上いたしましたような次第で」
「お人払いとおッしゃいましても、ごらんのように隣り座敷には茶道のお稽古にお集りのお嬢さん方がおいでですし、唐紙を距てただけの隣室ですものねえ」
仏壇は茶の間にある。こまったことには、その仏壇は隣り座敷に最も接近したところにあるから始末がわ
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