洩らしても、こいつは案外笑い話のつもりではないのさ。

 涼しい風の良く吹き渡る友人の家の二階で、私は友達のおふくろと話をしている。この人は男の子供が三人あるが女の子供がないせいか、男の味方だ。
「女はお勝手の仕事をしてももう駄目です」とこの人は私に語るのだ。男の魂を高潔ならしむるために、選ばれた女はただ美しい装飾でなければならぬとこの人は言う。働く女は男の心を高潔にしないと言うのであった。
 私はその言葉の実感には打たれたが、真実には打たれない。悲しい哉私は聖処女の値打を知らない。そして、ひとたび童貞を失った女と、売春婦と、その魂に私は全く差別をつける理由を持たない。幸福なことに、私は、働く女の美しさを知っている! 或いは、働くことによって曇りもけがれもしない魂の存在を知っている!(なぜだって? いや、のろけになるからその理由《いわれ》は語らないことにするよ)
 然し私は老婦人の思いがけない逆説に反感を催すどころの段ではなく、むしろ、年老いてなおこんな考えを懐く女のあることに大きな驚きをなしていた。
 数日の後、売薬その他いかもの類に造詣の深い友達に会い、また驚きのさめやらぬところか
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