人のいない単調な浜、降りだしそうな低い空や暮れかかる薄明の中にふと気がついて、お天気のいい白昼の海ですら時々妖怪じみた恐怖を覚える臆病者の私は、一時はたしかに悲しかったが、やがて激しい憤りから殆んど恐怖も知らなかった。浪にまかれてあえぎながら、必死に貝を探すことが恰も復讐するように愉しかったよ。とっぷり夜が落ちてから漸く家に戻ってきて、重い貝の包みを無言でズシリと三和土の上に投げだしたのを覚えている。その時、私がほんとは類の稀れな親孝行で誰にも負けない綺麗な愛をかくしていると泣きだした女が一人あったな。腹違いの姉だった。親孝行は当らないが、この人は、私の兄姉の中で私の悲しさのたった一人の理解者だったが。……
 さて、こんな風な母と私だ。
 ところが私の好きな女が、近頃になってふと気がつくと、みんな母に似てるじゃないか! 性格がそうだ。時々物腰まで似ていたりする。――これを私はなんと解いたらいいのだろう!
 私は復讐なんかしているんじゃない。それに、母に似た恋人達は私をいじめはしなかった。私は彼女らに、その時代々々を救われていたのだ。所詮母という奴は妖怪だと、ここで私が思いあまって溜息を
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