゚じゃないだろうね。」
 私は万事だめだと悟った。それでも最後の努力をやってみた、無益にもそして無謀にも!
「そのためだ。」と私は言った。「しかしきみは財産ができるし……」
 彼は私の言葉をさえぎった。
「いやいや! どうも! わしの番号だって、いいのがわかるには、きみが死ななくちゃいけない。」
 ほの見えた希望がいっそう完全に消えてしまって、私はむっつりとまた腰をおろした。

       三三

 私は目をふさいで、その上に両手をのせて、忘れようとつとめた、現在を過去のうちに忘れようとつとめた。そして夢みながら、自分の幼年時代や青年時代の思い出が、いま頭のなかに渦巻いている暗い錯雑した考えの深淵の上の花の小島のように、穏やかな静かな喜々たる姿で一つ一つうかんでくる。
 子供の時の自分自身が見える。にこやかな元気な小学生で、自然な庭の広い緑の径で、兄弟たちと遊び駆けり叫んでいる。私はそこで幼時の幾年かをすごしたのだった。以前は女修道院の構内だった庭で、上にはヴァル・ド・グラースの黒ずんだ円屋根の鉛の頭がそびえている。
 次には、四、五年後の自分が見える。やはりまだ子供ではあるが、もう
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