セった。
「そうだ、きみ、幸福だ、財産だ。それがすっかりきみのおかげでわしに来ようというのさ。こういうわけだよ。わしは憐れな憲兵だ。役目は重いし、月給は少ないし、馬は自分持ちでやりきれない。そこで、たりない分を手に入れるつもりで富籤《とみくじ》をやってる。何とかひと工夫しなくちゃならないんだからな。ただいい番号さえあてれば、これまでずいぶん儲かったんだがな。いつも確かなのを探してるが、いつもはずれてばかりいる。七十六番にかければ、七十七番が出るってしまつだ。いくらやっても、どうもうまくいかない。――もうすこしだ、じきに話はすむよ。――ところで、わしにいい機会がきた。ねえきみ、こう言っちゃなんだが、きみは今日|逝《い》っちまうんだろう。ところが、そういうふうに死なせられた者は、確かに前から富籤がわかる。だから、明日の晩わしのところへ来てくれないか、何でもないことだろう。そして三つばかり番号を、いいのを知らせてくれないか。ねえ?――わしは幽霊なんぞこわがりはしない。大丈夫だ。――わしの住所はな、ポパンクール兵営A階段二十六号室、廊下の奥だ。わしの顔を覚えててくれるだろうね。――今晩のほうが
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