烽ネく、手には何の身振りもなかった。
 がどうして他のことを彼に望めよう。その司祭は監獄の本職の教誨師である。彼の職業は人を慰安し訓戒することで、彼はそれによって生活している。徒刑囚や科人《とがにん》は彼の雄弁のばねである。彼はそれが自分の仕事だからして、彼らを懺悔させ彼らを補佐する。彼は人を死に連れてゆくことで年老いている。戦慄すべきことに長く馴れている。白の髪粉をつけたその髪の毛はもう逆立つことはない。徒刑場と死刑台とは彼にとっては毎日のことである。彼は鈍りきっている。たぶん彼は帳面でも持っていて、徒刑囚のページや死刑囚のページがあることだろう。翌日の何時には慰めてやるべき者がある、ということを前日から知らせられる。そこで徒刑囚か死刑囚かをたずね、そのページを読み返して、それからやってくる。そういうふうにして自然に、ツーロンに行く者もグレーヴに行く者も彼にとっては普通事となり、また彼らにとっては彼が普通事となる。
 おお、そういうもののかわりに、どこでもよいから手近な教区に行って、どんな人でもよいからある若い助任司祭を、あるいは年とった司祭を、私のために探してもらいたい。そして彼が
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