g炉《だんろ》のほとりで、書物でも読んでいてなにも予期していないところをつかまえて、こう言ってもらいたい。
「死にのぞんでいる一人の男がいます。あなたにその男を慰めていただきたいのです。その男が手を縛られる時、髪の毛を切られる時、あなたはそこについていてください。その男の馬車に十字架像を持って一緒に乗って、死刑執行人が彼の目につかないようにしてください。グレーヴの刑場まで彼と一緒に揺られていってください。血に飢えてる恐ろしい群集のあいだを彼と一緒に通ってください。死刑台の下で彼を抱擁して、それから彼の頭と体とがはなればなれになるまで、そこに控えていてください。」
 そして、頭から足先まであえぎおののいてるその司祭を、私のところへ連れてきてほしい。その両腕のなかに、その膝の上に、私の身を投げ出させてほしい。彼は涙を流すだろう。私たち二人は涙を流すだろう。彼はよく話してくれるだろう。私は慰められるだろう。私の心は彼の心のなかでやわらぐだろう。彼は私の魂を受け取るだろう、私は彼の神を受け取るだろう。
 しかしあの人のよい老人は、私にとって何であるか。私は彼にとって何であるか。彼にとって、私は
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