轤謔しいですか。」
「私のほうからお知らせしましょう。」
すると彼は出ていった。べつに怒ってるふうはなかったが、頭を振りながら、ちょうどこう自ら言ってるようだった。
「不信仰者だ!」
いや、私はいかにも低く堕《お》ちてはいるが、不信仰者ではない。私が神を信じていることは、神が知っている。いったい彼は、あの老人は、何を私に言ったか。本当に感じたもの、心を動かしたもの、涙のにじんだもの、魂からじかに出てきたもの、彼の心から私の心へとかようもの、彼から私へつながるもの、そういうものは一つもなかった。そしてただ、ある漠然としたもの、ぼやけたもの、万事にまた万人に通用できるものばかりだった。深みを要するところに誇張を持ち来し、素純を要するところに平明を持ち来した。それは一種の感傷的な説教であり、神学的な哀歌だった。ところどころにラテンの句をラテン語で引用し、聖アウグスティヌスとか聖グレゴリウスとかいうものが出てきた。そのうえ彼は、すでに二十ぺんも暗唱した課目を復唱してるようであり、知りすぎてるために記憶のうちに消えかかった課題を復習しているがようだった。目には何の輝きもなく、声には何の抑揚
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