ヘ免、赦免、私はおそらく赦免されるかもしれない。国王は私に悪意をいだいてはいない。私の弁護士をさがしてきてほしい。はやく、弁護士を! 私は徒刑を望む。五年の徒刑、それだけにしてほしい――あるいは二十年――あるいは鉄の烙印《らくいん》の終身でも。ただ生命《いのち》だけは助けてくれ!
徒刑囚は、それはまだ歩くし、往ったり来たりするし、太陽の光を見る。
三〇
司祭がまたやってきた。
彼は白髪で、ごく穏和な様子で、善良な尊い顔をしている。まったく立派な慈悲深い人だ。けさ私は彼が財布をはたいて囚人らに恵むのを見た。けれどもどうしたわけか、彼の声には何も人を感動させるようなところがなく、また自ら感動してるようなところもない。どうしたわけか、私の精神を動かしたり心を動かしたりするようなことを、彼はまだなにひとつ私に言ってくれなかった。
けさは私は茫然としていた。彼が何を言ってるかもよく聞き取らなかった。でも彼の言葉などは何の役にも立たないような気がして、無関心な態度でいた。この冷たい窓ガラスの上のこの寒い雨のように、彼の言葉はただ滑り落ちていったのだった。
それでも、先刻
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